同じ人を好きになったアイツと俺

真のドスをきかせた声が聞こえてくる。

「そこの女ぁ、俺の大事な弟から離れろ」

その言葉に、周りに居る女の声が割って入る。

「麗しい兄弟愛ねぇ」

「いいよねぇ」

真は一喝している。

「るさいっ! おい、そこの女、こいつから離れろ。女だからと言って容赦はしないぞ」

俺の腕をつかんだ手に力を込めているのか、益々ギュッと締め付けられる。思わず口に出ていた。

「いつっ」

その漏れた声に真は気がついたみたいだ。

「ホテルマン、警察。どっちを呼ばれたい?」

まだ感情を抑えてるみたいだ。

さすが兄貴、TPOをわきまえようと冷静さを保っているんだな。

「なによ! 私たちとの約束が先でしょっ」

「した覚えは無いね」

「したじゃないっ」

「女と食事しようとは思わない」

その言葉に、思わず口から漏れそうになったが押しとどめた。

(嘘つき。恋人とは食事するくせに)

その言葉に、俺の腕をつかんで離さない女は、こう返している。

「昼間、約束したでしょ。親睦を重ねて食事したいねって。その時、あなたはこう言ったわ。”時間が合えばしたいですね”って。だから、こうやって」

それって社交辞令だろう。そう思ったが余計なことは言うまいと思っていたら、真はあきれた口調で返している。

「ああ、あんたは、あの会社の事務員か。それを言ったのは社交辞令だ。そんなことも分からないのか。それに、俺は相手である上司に言ったんだ。あんたではない」

「社交辞令なの?」

「そうだ。なるほどね。俺を尾行していたのは、あんたか」

「だって、どこに行くのか知りたくて……」

その言葉に俺はキレた。

「ざけんなっ! ホテルマン、警察呼べっ! ストーカー逮捕だ」

「なによ。あんたは」

「あんたが男なら既にノシている。女だから我慢しているんだ」

真の声が聞こえてくる。

「先にホテルマンだな。ちょっと待ってろ」

「早くしてくれよ」

「オーライ」

ロビーの受付に向かっている真の後ろ姿を見て安心したので、未だに俺の腕をつかんで離さない奴に言ってやる。

「いい加減に離さないと本当に警察に突き出すよ」

「そんなこと出来るわけ無いじゃない」

「それが出来るから言っているんだ」

あれ、ちょっと待って。最後の言葉って二重音声になってたような気がしたのは気のせいかな?

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