「もっと、はっきり言ってやろうか。ストーカー紛いと拉致未遂で逮捕だ」
第三者の声だ。
「あんた誰よ」
「一部始終、見させて貰ったよ」
どこかで見かけたような顔だなと思い聞いていた。
「お宅、誰ですか?」
その人は溜息をついているが、誰なんだろう。
「まあ、完全に私服だし髪型もコレだから分からないか。警視庁捜査1課の村瀬です」
「あー……、村瀬さんかぁ」
「完全に私服で、私事の姿ですから分かりづらかったですね。申し訳ないです」
「本当に分からなかったです」
「先生の書かれる本には参考になることばかりなので愛読書にさせてもらっています」
「愛読書だなんて照れる……」
「こちらへはネタ探しですか? それとも兄弟揃って羽伸」
そんな時、真が戻ってきた。
「あー! 村瀬。お前、どうしてここに」
「久しぶりですね」
「こんなとこまで何しに」
「夏休みで帰省ですよ」
「え、帰省?」
思わず真の言葉を遮っていた。
「へえ、村瀬さんって大阪の方だったんですか」
「そうです」
「大阪って広いですねえ」
「もしよろしければ観光案内しますよ。それより、お2人は」
真が俺を庇うように前に立つ。
「俺は仕事。こいつはネットさえあれば、どこでも仕事は出来るから連れてきたんだ」
「そうなんだ。で、先生の腕をつかんで未だに離さない女、どうします?」
「仕事させてやるよ」
「嫌だなあ」
俺も言ってやる。
「村瀬さん。管轄外で申し訳ないですが、この女、引っ捕らえてください」
「先生の頼みなら仕方ないですね」
村瀬さんは、その女に目をやる。
「というわけで。いい加減に、その手を離してもらおうか」
そう言い終わると、俺の腕は自由に動かせるようになった。
「村瀬さん、ありがとうございます」
「いつも助けて頂いているので、これぐらい大丈夫ですよ」
すると、数人の警察官がロビーに入ってきた。
「げっ……。夏休みで帰ってきてたのでは」
「目の前で繰り広げられてね」
「あー、そうですか。協力、ありがとう、ございます」
「どういたしまして。それでは先生方、ごゆっくり」
先生と呼ばれ、思わず言っていた。
「はい。ありがとうございました」
その警察のリーダーらしき人が村瀬さんに声を掛けている。
「おい、村瀬。先生って」
「小説家の小林修(おさむ)先生」
いや、バラさないで欲しかったな。