いきなり痛みが襲ってきた。
「ったーい」
「ってぇよぉ」
父ちゃんのドス声が聞こえてくる。
「やって良いことと悪いことがあるだろうが。この2人はっ」
「父ちゃん、痛い」
「自業自得だ」
トモも文句を言っている。
「おじちゃん、凄く痛い」
「ったりまえだ」
うー……と、2人して頭に手をやって唸っていると、声が掛かる。
「まあ、あの獅子は、そんなに重みがないから3人は潰れただけで生きているがな。後の2人は自業自得だ。いいか、康介。これからも同じことがあるだろう。今回と同じように逃げ出せるとは思わないことだな」
「はい。ごめんなさい」
「トモ君もだ」
「はい、ごめんなさい」
ふいに冷たい物が頭に当たる。
「はい、これで冷やしてて」
「お母ちゃん、ありがとう」
「香織も殴る気満々だったのだけど、頭が痛くなったから殴るのやめたって」
「良かったぁ」
お母ちゃんは微笑むと、今度は隣にいるコースケに声を掛けている。
「康介君も、そのまま冷やしてて」
「え、でも……」
「いいから。少しは痛みが引くわよ」
「ありがとうございます」
すると車が動き出した。
「あ、父ちゃん。待って」
「お前は歩いて帰ってこい」
「えー……」
「すぐ着くだろうが」
「まあ、それはそうだけど」
お母ちゃんが僕の思いを言ってくれた。
「家まで送ってあげるからね」
「え、だって、すぐそこだし」
「そのすぐそこで、誰かに待ち伏せされていたらどうする?」
「あ、でも……」
「大丈夫よ。おチビのトモもいるからね」
その言葉に腹が立ったのか、声に出ていた。
「チビだけ余計だよ」
「でも、トモも一緒に送りたいでしょ?」
「うん。送りたい」
数分だけなのだけどと思っていたが、素直に送られていた。
なんて言えばいいのか分からなかったらトモが声を掛けてくる。
「じゃあ、明日も幼稚園でね」
「うん。また明日」
お互い、バイバイと手を振って、俺は門をぐぐり家に入った。
途端に抱きつかれそうになった。
でも、足が滑って玄関先のタイルに顔面から転げてしまった。
「うーん、避けられてしまったか。それとも足が短かったか」
「父ちゃん、抱っこー」
「ほいほい」
「ほんっとーに痛かったんだからな」
父ちゃんはクスクスと笑いながら言ってくる。
「もう、今日のようなことは二度としないこと。いいな、守れるよな」
「はい、もうしません。ごめんなさい」
本当に、お前は死んだお母ちゃんによく似ているよな。
そんな呟きが聞こえてきた。
「父ちゃんは、今でも母ちゃんのこと好きなの?」
「ああ、好きだよ。だから結婚したんだよ」
「母ちゃんは……。いや、いいや。父ちゃん、今日は思いっきり抱っこしてよね。今も顔を打ったし……。本当に痛かったんだからな」
「はいはい」