翌日、幼稚園に行くと何もなかったような雰囲気だ。
まあ、父ちゃんはお喋りじゃないし、トモのおばさんだってお喋りじゃないからな。
幼稚園の先生にも言ってなかったのだろう。
「はーい、それでは朝のご挨拶しますよ。あ、タケル君、おはようございます」
「おはよーございます」
朝のご挨拶も終わり、プールで泳ぐために水泳パンツに履き替えてるとタケルが寄ってくる。
「なあなあ、コースケ。昨日はどうだったんだ?」
「なにが?」
「お前と、あいつ」
もしかして知ってるのだろうか。
「あいつって?」
「誰かに攫われただろ」
知っているみたいだ。
「それ、誰かに言ったのか?」
「いや、言ってない」
しつこく聞いてくるタケルにうんざりしていると、ユウヒが呼びに来た。
「今日はコースケが先頭だってさ」
「おー! 嬉しい」
先頭とは、11番前に立って皆より先に入ることだ。
嬉しい気分でプールに着くと皆が待っている。
先生が声を掛けてくる。
「コースケ君、今日は何にする?」
その言葉に即答してやる。
「アドベンジャーワールド」
「よーし。それじゃ、皆。今日はアドベンジャーワールドだよ。一緒にプールの中を探検しようねー」
「はーい」
父ちゃんの口癖。
「男は、いつも夢を見て追いかける少年だよ」
いつかは、俺もバイクを乗り回して先陣を切ってみたい。
だから、長生きして。
母ちゃんみたいに早く死なないでね。
アドベンジャーワールドと名付けられた今日のプールが終わり点呼を取る。
「あれ? 足りない?」
その俺の言葉に先生は返してくれる。
「ううん、いるよ」
「でも……」
誰が居ないのだろう。
見まわしていると、居ない子が誰なのか分かった。
「トモは?」
「今日はお休みだよ」
「休み?」
「そうよ。あとスミちゃんとなっちゃんもね」
休みって、頭が痛いとかいうものかな。
まあ、俺は慣れてるとはいえ、初めのうちは痛くて立てれなかったからなあ。トモにとっては初めての経験だったろうよ。
だからタケルは、しつこく聞いてきたのかと納得した。
帰りにトモの家に行くと、こう言ってきた。
「たんこぶが大きくてね。まだ痛いんだ」
「ごめんな。父ちゃんってバカ力だから」
「明日と明後日は休みだし、来週からは行けるよ」
「それなら良かった」
「来てくれてありがと」
「それじゃ、またな」