博人さんが覗き込んでくる。
「どうかしたのか?」
「いいや、べつに」
そっか、財閥の直系か。それを聞いてこの言葉の意味も分かったよ。
「男は夢を見て追いかける少年、か」
「なんだよ、急に」
「いや、さっきの夢を見て思い出したんだ。男って冒険好きだよなあって」
「冒険というか探検だな」
「博人さんは、小さい頃って何が好きだったの?」
「んー……。今とは違って体力がなくて、もっぱらバイオリンばっかり奏でていたな」
「えぇ……、信じられない」
それでも、考え込むと付け足してくれた。
「マルクと一緒に旅行したことくらいかな」
「へぇ、旅行ね」
「楽しかったよ」
「2人で旅行するほど仲良かったんだね」
「あの頃はマルクに付きっきりだった。本当に楽しかったよ」
そこで、あることを思いついたので言っていた。
「ねえ、博人さん。その斎藤財閥の人と会うことってある?」
「どうだろう……。なにを考えてるんだ?」
「あの時はごめんなさいと謝りたいだけ」
「あの時って?」
ため息ついて言ってやる。
「さっき言ったでしょ。親友の父親に拳骨食らった夢を見たって」
「それが?」
「その斎藤財閥家で起きたことで拳骨を食らったんだよ」
すると笑われた。
しかも、こんなことを言ってくる。
「とっくに時効だろう」
「そうだろうけど、その財閥の直系の嫡男が私の親友なんだよ。優介も、また……。そこの嫡男なんだ」
そう言うと博人さんは驚いている。
「何を考えている?」
「別に。ただ、もっとお近づきになりたいなと思って」
すると、とんでもないことを言ってきた。
「あそこは生まれてくる子どもは女ばかりだ。男はいても跡を継がない」
「え、そうなの?」
「お前、もしかして婿養子に……」
「違う、違う。それに私は子持ちだ」
「再婚しようとは」
「思ってない」
「そう。即答なら良いんだ」
しかし、そういう事か。
うーん……、と考え込んでいたら声が掛かる。
「本心は?」
「ただ、あそことお近づきになっていたら、康介のことを知ることができるだろうなと思っていたんだけど。でも男はいないのか……」
「あそこ主催のパーティーとかは誰でも避けてるぞ」
「婿養子の話を押し付けられるから?」
「そうだ」
それだけは嫌だと言い、両腕で大きな×を作る。
「まあ、参加しているのは年を取った爺さんや、小中学生ぐらいだ」
「仕方ないなあ。自分でなんとかして情報集めるかあ」
(終わり)