ビッグと呼ばれた犬は、コースケの言葉に忠実に動いていく。
まずは自分の部屋へ。
そこは屋敷の玄関近くにあるのだが、大広間を渡り、廊下を3本ほど渡らないと行けれない。
その途中で誰かと鉢合わせてしまうことがあり、気が気ではない。
押しピンのピンを上にして階段の上り口に7列にして並べ置いていく。
少し間をあけて、今度はバナナの皮を敷くように置いていく。
すると、誰かが走りながら、どこかの部屋に向かって叫び聞いている声が聞こえてきた。
「おい、子どもを見なかったか」
「いえ、見ませんよ」
その男は走る足を止めずに勢いよくバナナの皮で足を滑らせ押しピンの上に覆いかぶさった。
「ぎゃあー」
その男は階段の下まで落ちていく。
人が集まってくるが、コースケと一緒になってVサインをしていた。
「今度は俺の番だ」
そう言うと、コースケは次の廊下に向かった。
爪楊枝の先っぽを上にして、絨毯の上に丁寧に立てていく。
コースケはいじめっ子の表情をしながら楽しそうだ。
声がする。
「なあ、あいつはどうしてああなったんだ?」
「俺が知るかよ」
「もしかして、あのガキどもか」
「拉致られたから復讐か」
「でも、何も持っていなかったけどな」
5人の男は爪楊枝の上を歩いているが、何も感じないみたいだ。
「ん?」
「どした」
「いや、なんでも」
何かに気が付いたのかな。
でも何事もなく歩き去ったみたいだ。
そう思っていたら変化があった。
「なんだ、これー」
「ってぇなぁ」
「ピン、いや。木って、なんだぁ……」
「そったれー」
「あのガキどもがあ」
その声を聞き安心した。
「やったね」
「爪楊枝は即効性ないってことか。でも痛みは後からジワジワ来ると。覚えとこう」
残りの廊下は1本だ。
でも、その前にトイレに行きたくなってきた。
そう言うと、今のうちに行っとくかということになった。
トイレに行くと、綺麗に掃除されているのか汚れがついていない。
個室に入り蓋を閉めて2人して座り込む。
「これからどうする?」
「あと1本で玄関だから、と言っても、あっちも考えるだろうな」
トイレに入ってしまったので、犬とはぐれてしまった。
「ここがどこなのか知ってるの?」
「うん……。まあ、トモだから良いか」
ここはコースケのお爺ちゃんの家だそうだ。
「遊びに来ましたって言えば?」
そう言うと、コースケは目を大きくパチクリとしていた。
「父ちゃんが聞いたら”とんでもないことをするな”と言って怒るだろうな」