だけど、子どもより大人の方が早くて、あっという間に追いつかれてしまった。
「遊びは、ここまでだ」
「一緒に、こっちに来てもらおう」
ここまでかと思ったが、トモが服をクイクイと引っ張ってくる。
「なんだよ」
「秘密縄」
その言葉で分かった。
そうか、それで下に降りればいいんだ。
「あばよ」
そう言って、俺は2番目の縄を、トモは隣の3番目の縄を使いスルスルと降りてやる。
「ガキのくせに」
「1番目は短いな」
そう言うと、4番目と5番目の縄を使い降りてこようとする。
が、5番目の縄を使った人は落ちてしまった。
「イェーイ」
だけど、もう1人残っている。
「待てよ。俺らが必要なのは、坊ちゃんだけだ。貴様は帰っていいぞ」
トモは即答していた。
「2人して連れて来られたんだ。帰る時も2人だ!」
こいつは誰にも言わないだろう。
いじめられっ子が、本当に強くなったもんだな。
「なら、一緒に帰るか」
「うん、帰ろ」
男の呟きが聞こえてくる。
「素直に帰してたまるか」
すると階段横のドアが開いた。
顔を覗かせているのは真っ黒い犬だ。
「お前ら、この2人を追え! 追って2人を追いつめろ!」
黒い犬が何匹も出てきたが、先頭の犬は動かない。
「どうした? さっさと」
コースケは思い出した。
「今のうちだ。逃げようっ」
「待て、こらっ」
少し経つと、後ろから男の叫び声が聞こえてきた。
「ぎゃー―」
コースケに聞いていた。
「ねえねえ、あの犬って何? それに、あの人は」
「トモ、俺は、あのドアの前に押しピンを置いていたんだよ。たぶん、痛くて動けなかったのかも。それで、あの男はたぶん」
その読みは当たっているだろう。
だけど好奇心旺盛なトモは聞いていた。
「たぶんって、なに?」
「あの黒い犬は、人間でも食べるんだよ。だから、あの男はどこかを怪我して血でも流したのだろう。その血の匂いで、あの犬たちに」
そこまで聞くと、さすがのトモも分かったのだろう。
泣きそうな表情で聞いてくる。
「まさか、食べられ、た、の?」
「たぶん」