それから50年後、300歳になった”僕”は、”吾”呼びになった。
お母さんの力を吸収しているのかどうか分からないが、吾の肉体にくっついているお母さんの肉体は朽ちないでいる。どうやれば良いのだろうか。
なんて事を思っていたら地割れが起きた。これは、お母さんが居なくても地割れは起きるのかと不思議だった。
いつもの様に水を浴びに海水に浸かろうと思ったが、どうやったら肉体に戻れるんだ。この魂のままでは何も出来ない。いや、この姿だと金粉風呂で十分なのだが、未だに母の身体がくっ付いている自分の本来の姿に戻る事は不可能なのだろうか。
お母さんの最期の姿を思い出していると自由に姿を変えていたことを思い出す。そうか、強い意志を持っていれば戻れるのだろうか。
それならば我にだってある。
父を、母を返せ―。
そういう思いで自分の肉体をじっと見つめる。
”起きろ。目覚めよ。”
だが、中々目覚めないので、思いを声に出していた。
”吾は神龍。吾は水と風を司る神龍だ。父も母も戦士だったが吾は違う。吾は神龍だ! 目覚めよっ!”
どれ位、睨み付けていただろうか。目の前の自分本来の姿の瞼が開き、こっちを見ていた。
その姿に声を掛けてやる。
”50年ぶりの風呂だ。”
その言葉に、姿は反応した。
ズシン……、ズシン……、ズシン……と地響きをたてて海風呂に浸かる。
頭の上に座っていたらツルンッと滑って落ちるが、鼻の上に引っ掛かる。
”お前は飛べるんだよ。本当なら、お父さんとお母さんが来てくれるのに……”
でも、2人は来ない。
海水に頭まで浸かった姿は、鼻先に居る金龍をあるべきところに戻そうとしていた。
”おい、こら。何をして”
本体はザバッと頭を水中から出し首を振る。まるで金龍を振り落とそうとしているみたいだ。
その内に振り落とすことが出来たみたいだ。
”うわっ”
ザバーンッ……と水中に放りだされた金龍は、抜け殻同然の姿となった自分の身体を見つめていた。
戻りたい。戻って空を飛び回りたい。
あの頃の様に、3人で空を駆け巡りたい。
ふいに目と目が合う。
吸い込まれていきそうな感じだ。
思わず目を瞑っていた。
次に目を開くと浮いている感じがある。
”あれ、もしかして飛んでる?”
下を見ると、浮かんでいる筈の姿は無く、自分の爪先が見える。
”もしかしなくても戻れたのか。”
海上すれすれだけど、それでも嬉しかった。
そんな時、声が聞こえてきた。
「やっと、姿を見せたか。」
「このイタズラ龍が。」
「成敗してくれる!」
「人間を甘く見るなよ。」
「50年毎の恨み、晴らしてくれる。」
それは小さき5人の人間だった。