トネこと俺、利根川はナイフ付きのナックルの他に、スタンダードなナックル1セットに、弓矢1セットに矢は2筒を土産として貰ってきた。
いや、勝手に漁ってきたのだが、それでもキラキラと輝くまばゆい物には弱い。
ナックルの使い方は分かるが、弓矢は難しそうだ。
でも、マシンジムの部屋の壁に飾っておくと、目を奪われるのでやってみることにする。
弓矢の使い方が分からず、矢を放って遊んでいる日々を過ごしていた。その時、ふと思い出したのが瀬戸君だ。
そういえば、瀬戸君は弓矢で龍を退治していたなと思いだしたのだ。
こうなるとプライドもへったくれもあったもんじゃない。
翌日、会社に行くと瀬戸君の部屋を訪ねる。
瀬戸君の秘書をしている岡崎は訝しげな表情をしているが、今日は瀬戸君に用事があってきたんだと言うと、取り次いでくれた。
おそらくドア越しに聞いているだろう。だけど、岡崎。お前だけには聞かれたくない。そういう思いで、部屋に入ると常務部屋の隅に瀬戸君を追い詰める。
案の定、逃げ腰状態の慌て声になっている。
「と、利根川専務、どうされました?」
「瀬戸君にお願いがあってきた」
「どのようなことでしょうか?」
そりゃ今までが今までだから訝しげな表情をしているのは分かるが、今回は違う。だから、きっぱりと言っていた。
「あの龍相手に弓矢で退治していた姿を思い出して、弓矢の使い方を教えて貰えないだろうか」
「え?」
「弓矢を持って帰ったのだが、どうしても使いこなせなくて……」
「もしかして、その弓矢で私を狙い撃ちにするとか……」
「違う」
「誰かを怪我させるとか……」
「だから、違うと言ってるだろう」
まったく、これまでがこれまでだったから仕方ないかあと思い、自分の思いを口にしていた。
「マンションの部屋に置いて矢を飛ばしているのだが、どうしてもまっすぐに飛ばなくて。どう扱えば良いのか分からなくて、それを教えてくれればいいんだ。」
すると、瀬戸君は床にへたり込んでしまった。
「瀬戸君、どうした?」
「あ、いえ、そういうことでしたら喜んで……」
「ありがとう。」
「あ、あの、もう1人増えても良いですか?」
「誰を呼ぶ気だ?」
「安藤専務です。」
「安藤か。いいよ、かまわない。」
3人の都合が合う日に、俺のマンションに来てもらい教えて貰うことにした。
安藤は自分で持ち帰ったのは弓矢でないので、瀬戸君が持参した弓矢を使うつもりらしい。
「弓矢の使い方よりも姿勢が大事なので、姿勢が正しければ矢は飛びますので。安藤専務は姿勢からですね。」
「え、こう?」
「お尻が出ています。引っ込めてください。利根川専務は、姿勢は良いので、そのまま構えます。左手は、蔓の真ん中。そして右手は矢の端を持ち弓の真ん中をつまむようにして。ああ、良いですね。まっすぐ両手を上にして、的に向かって両手を前後に引っ張る。」
「凄く力がいるんだな。」
「強く引っ張りすぎると的から外れてしまいますので、そこはやっていきながら自分でつかんでいくものになります。」
それだけでも筋肉が緊張する。
「利根川専務、弓道は初めての経験ですか?」
「まるっきりの初めてだ。」
「腕がブルブルと震えているので、緊張しなくてもいいですよ。深呼吸してから、もう一度構えてみましょう。」
「瀬戸君、私のは?」
「安藤専務は、姿勢がどうしても……。どうしてお尻が出てしまうのですかね?」
「うーん……」
瀬戸君は安藤専務の尻を叩いている。
弓道は姿勢が一番大事なんですよ。その次は的を絞る。そして最後まで視線は的からはずさない。それらを踏まえて、やるのです。
そう言うと、瀬戸君は1本を放った。
思わず拍手していた。
「おー! 凄いや、さすが瀬戸君だ。」
3時間、教えて貰ったのだが、1本も当たらなかった。
「利根川専務、弓道はすぐに結果が出るものではありません。積み重ねが大事です。今回の3時間だけでは1本も当たりませんでしたが、本当にやりたいと思われるのでしたら、根気よく続けることです。」
「また時間が合えば、その……、教えてくれるか?」
「はい。私で宜しければ。」
「うん、よろしく。」